「愛しています」関係ない
キリスト教を名乗る、異端のカルト教団にハマってたわけだ。
香川から名古屋に来た目的がそれだった。
28歳だった。名古屋に引っ越した当時。
その教団の親分は日系アメリカ人。
雑談の中で「日本人はシャイなのもあって、伴侶にちゃんと「愛してるよ」って言わない。よくないことだ、言わないのは。愛してると言わなきゃ」って彼は言ったんだ。
でもね、日本人は男女や夫婦についての道徳観とか「男なら・女なら」は聖書的秩序に近いものがある。それぞれの役割分担や責任、こうあるべき、という良識。
などなどで、私は親分が言ったことをちゃんと聞いてるフリしてスルーだった。
あとで思ったよ。欧米、熱烈とかいうスペインとかイタリヤ。あっちの男はナンボでも女をほめちぎるし、とっても愛してると言う。
で、ケタ違い。離婚率。ほんとにケタが違っていた。あの当時。
そして日本の男も、そのへんだんだん欧米化して、面と向かって「愛してる」と言うのが平気になって、離婚率も爆上がりになって、欧米に追いつく状況だ。
いいんだよ、ムリにそんなこと言わなくても。アホらしい。
じっさいに証明できちゃってるんだから。愛してる愛してる愛してますあなただけ。言ってる回数が多い国が離婚率高いんだから。
ウチも言わなかったな。たまに私は言ったよ。たまあにだ。妻からは聞いたことなかったよ。1回だけあったけど、無理やり舌噛みそうになりながら絞り出したな。ムリするな、でした。
40年仲良く暮らして、先に天国に行かれちゃった私は寂しさ孤独感満載だ。
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その一方で、あの団体の中ではかわいそうな結婚もあった。
親分が事実上ひっつけたんだ。あなたとあなただ、みたいに。
その男のほうは何ごとも「信仰で」というのが口ぐせだった。
自分は信仰に厚い人間だと思っていた。
女のほうはマジメですなおでやさしくて男には従順で、ほぼ100点だった。
男、彼は不器用だった。不器用でも、ネが良い男だったなら、なんだけど。
彼は結婚前に彼女に言ったんだ。
「あなたは私の望むタイプではないですが、信仰で愛します」と。
その話を聞いたウチのかーちゃん。
「私ならそんなこと言われたら「自分の好きなタイプ探せばいいじゃん。信仰で愛しますなんて、いらねーよ」って蹴とばしてやる」だと。
私もそう思った。
じっさい、その後聞いた話。彼女は隠れて泣いてたそうだ。
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展望台。ハルモコ。